80歳過ぎのご老人。戦争直後の歯科治療では歯を抜く事が主流でした。ほとんど無理に抜かれてしまいました。合う入れ歯を求め、幾度となく作り替えたのですが、そのたびに歯ぐきは傷が絶えません。
食事をするため、生きるため、合わない入れ歯を無理をして装着しています。ただ、食事以外は、外したまま。入れ歯を外すと会話が不自由になるため、妻との会話がうまくいかずケンカが起こっています。
現在使用している合わない入れ歯を確認したところ、以前の入れ歯では顎位のずれが見つかり、安定していなかったことが判明しました。下あごは、骨がなく強打でもすればすぐ骨折してしまう状態でした。
上あごはどこもかしこもブヨブヨ(フラビーガム=コンニャク状歯肉と呼ばれ、口の中の分厚くブヨブヨした歯肉)。入れ歯の吸着に支障が大きくきたすので、形どり(咬座印象)で完成する新義歯をもう一度口腔内でリベース。
かみ合わせを狂わさないまま、上の吸着を確保しました。下はシリコン系のラバーを使うと、ズレた時に修理不可能になるため、あくまで新義歯をリベースのみとしました。
右アゴの骨が大きく吸収
このような顎の状態で、シリコン系素材を使わなくてもかんで痛くない状態にできる、ということを改めて実感したケースです。70年ぶりにまともに味を感じ食事ができたそうです。10代からずっと入れ歯なのか?と気の毒になりました。
その後医院へ通院してこられるたびに、少しずつ背筋がまっすぐになり、元気になるの見てとても嬉しくなりました。このご老人の娘さんも、歯は大切にしないといけない!という様子でしたので、歯科医師としての使命の重さをさらに感じました。